IMSB

いきていくのに まったく必要のない しょーもない ぶろぐ

チョイス。

誰かが言った。

 

人生は「選択」の連続である、と。

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深夜のコンビニが好きだ。

客は少なく、いつものバイトさんが不愛想に出迎えてくれる。

静かな店内では、懐かしい有線放送の音楽が寂しく鳴り響き、記憶中枢のシナプスによる電気信号のやりとりを刺激する。

 

活性化された脳細胞は、のっけから困難な選択を迫られる。

 

 

買い物かごを持つか否か。

 

 

これ見よがしに高く積み上げられ、持ってくれと言わんばかりに斜めに傾けられた、かごは、黄色い持つところを上に揃え、所持を誘う。

誘惑に抗わず、左手で当然のごとく、グイっとかごを持ち上げ、まるでその選択が無かったかのように店内の奥へと進む。

これは選択ではなくはじめから決められた一連の流れ、あるいは想定内の予定調和なのだと言い聞かせるように。

 

 

 難所と聞いて何を思い出すだろうか。

 

事あるたびに思い出されるのが、幼少の頃、車に乗せられ通った、国道274号線、いわゆる日勝峠である。

 

おまけ「日勝峠(にっしょうとうげ)」

 

北海道の難所として知られるこの道路は、山肌に沿った曲がりくねった道と、薄暗く異空間に迷い込んでしまったかのように錯覚させる数多くのトンネルで構成されており、特に夜間、吹雪いているこの道路を通った時は、座席に必死にしがみつき、何事もなく峠を抜けられるのを祈ったほどだ。 

 

それほどの恐怖が、序盤のコンビニに訪れる。

 

 

艶。

 

雑誌類の棚である。

 

なまめかしく、そして、妖艶に立ち読みを迫ってくるエロ本波状攻撃は、DNAレベルでの本能をも揺り動かされるほどの、まさに、リーサルウェポンである。

近年は、自衛権の抑止的発動なのか、はたまた、存立危機事態による集団的自衛権発動のためか、立ち読み防止用のバンドがなされ、手に取りよだれを拭きながら眺めることは不可能になったが、バンドの隙間からのぞく表紙の女性の瞳は、画像処理技術の革新と、生々しい肉感的魅力とが相まって、暗く、深い、底の見えない容易に落ちることのできる洞穴のように、誘っている。

 

 

踏み出せ。

 

歩を進めろ。

 

止まってはいけない。

 

 

言い聞かせながら、鼓舞しながら、やっとの思いで目的地の一つである飲料品売り場へ出る。

ひんやりとした冷気が流れ、難所を切り抜け、火照った体を冷ます。

 

 

どの水分を選ぶのか。

 

 

またも選択である。

慣習にならえば、いつもの缶コーヒー、ワンダ、あるいはボス。刺激が欲しければ、炭酸、ファンタ、コーラ、ジンジャーエールドデカミンあたりか。ミネラルウォーター、お茶類はまだ家にあったため考慮には入らない。アルコール類も論外。めったに飲まない。

 

 

どれだ。どれがベストの選択だ。

 

 

ここでふと缶コーヒーの値段に視線が止まる。税込み123円。

近くの自販機はワンコイン100円だった。もうちょっと先のドラッグストアでは6缶セット321円で売っていた。 

 

 

 利便性。

 

 

つまりはコンビニエンスなのか、あるいは値段の安さなのかという選択である。

身体的渇望感よりも、近代におけるデフレスパイラルに飲み込まれる方を選ぶか否か。

 

 

唾を飲み込み、後者を選択したあとはそのまま弁当売り場へ歩を進める。

 

 

さすが深夜の時間帯。選択肢は少なく、おにぎりセット、からあげ弁当、チキンカツ弁当、の3つしかない。隣のチルド弁当の方には親子丼、牛丼、焼きそばチャーハンセット、 中華丼が並んでいる。ちなみにチルド弁当とは、消費期限が幾分長く保たれる弁当のことで、レンジで温めることを前提に製造されたものである。

 

 

またも襲う選択の嵐。

 

 

チルドか普通か。

 

肉か野菜か。

 

麺か。

 

牛か鳥か。

 

 

 

 

優柔不断だと言えばそれまでだろうが、現代ではたくさんの選択を迫られる。しかも強制的に。選べ、と。

選択できる自由を与えられる代わりに、選択しない不自由さを受け取るのではないだろうか。ベストな選択肢が他にあると考えるとき選びませんと断固として断る勇気、言い換えれば強い自己意識こそ現代を生き抜くために必要な手段なのだと痛感する。

 

 

深夜の空腹感は、そんな自己啓発本の薄い結論なんぞものともせず、胃もたれしそうなチルドの牛丼を手に取り、おまけにコンソメポテチをレジまで待って行かせた。

 

 

家につき、上着を脱ぎ、PC画面をながめつつ、牛丼を温めて、さあ、至福の時間だと、表情を緩ませたときである。

 

 

「コーヒーが飲みたい・・・」

 

 

牛丼をレンジから出し、上着をふたたび着つつ、寒空の中、自販機へと急ぐ。

 

 

財布もワンコインをも忘れて。